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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1964号 判決 1969年5月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人の申立

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人の申立

本件控訴を棄却する。

第二  事実上の主張

一  被控訴人の主張(請求原因)

被控訴人は、昭和二九年六月一〇日控訴人から別紙目録記載(一)の各土地(以下本件土地という)を代金実測により一坪当り一〇ドル(邦貨換算三、六〇〇円)、(二)記載の建物および附属設備(以下本件建物という)を代金二二〇万円で買受け、右代金合計額(概算一、三〇〇万円)を、(1)右売買契約と同時に手附金として四〇〇万円を後日代金の内入とする趣旨で支払い、(2)昭和二九年一二月三〇日、(3)昭和三〇年六月三〇日、(4)昭和三〇年一二月三〇日の三回に各金三〇〇万円宛分割して支払い、なお、土地の実測による代金の過不足分は最後の(4)の支払額において調整する。土地の建物所有権移転登記手続は、右代金完済と引換えに行なう旨を特約した。

右約定に基き、被控訴人は控訴人に対し、(1)については昭和二九年六月一〇日金一五〇万円を、同月二四日二五〇万円を支払い、(2)については約定の日に全額を支払い、(3)については昭和三〇年七月二五日金二〇〇万円を同年八月三一日に一〇〇万円を支払い、(4)については、昭和三一年二月一八日本件土地の実測坪数三〇六八坪四合八勺の坪当り三、六〇〇円の割合による土地総代金から以上支払ずみの一〇〇〇万円を差し引いた金額が九六万一、四九六円になると考えてこれを控訴人に現実に提供したが控訴人より受領を拒否されたので同月二一日東京法務局八王子支局に弁済供託し、ついで同年三月一四日建物代金として金二二〇万円を弁済のため現実に提供したが控訴人より受領を拒否されたので同年四月六日同様に供託した。而して、右土地代金は被控訴人の誤算のためなお八万五、〇三二円残存していたので、昭和三四年一〇月二三日右金額を弁済のため現実に提供したが控訴人より受領を拒否されたので同年一一月一〇日前同様に供託し、ここに本件土地建物の代金を完済した。

よつて、被控訴人は控訴人に対し本件土地建物の所有権移転登記手続を求めるため、本訴請求に及んだ。

二  控訴人の主張

被控訴人が一において主張する事実中、(4)の弁済提供の事実を否認する。(2)の支払の時期は昭和三〇年一月四日である。

その余の事実は認める。

抗弁(一)

控訴人は、昭和三〇年七月二五日より同年八月上旬に至る間、被控訴人の代理人石山乃木との間で、被控訴人が控訴人に対し昭和三〇年一二月末日までに支払うべき本件土地建物の残代金約三〇〇万円を約定の期限までに支払わないときは、控訴人において催告を要せず本件土地建物の売買契約を解除することができる旨特約した。しかるに、被控訴人は、右期限を徒過し、控訴人に対し右石山を通じ昭和三一年一月九日右残代金を本件土地建物の所有権移転登記を取り扱う管轄法務局に持参提供する旨連絡しておきながら、同日に至つてもこれを履行しないので、控訴人は、前同日前記法務局において右石山に対し、本件土地建物の売買代金の不払を理由に契約を解除する旨意思表示をした。

抗弁(二)

かりに右契約解除がその効力を生じないとしても、本件の売買契約は、本件土地建物のほか、別紙目録(一)記載の土地のうち三〇五〇番地ないし三〇五五番地の一部に設けられた植木園に控訴人において仮植育成中の植木(以下本件植木という)をも一括して売買の目的物件とされたものである。そして、本件植木の代金は、本件土地建物の所有権移転登記を実行し植木を引渡す際に、約定済の本件土地および建物の各代金と別個にその時現在における時価を評価して双方協議の上これを決定する約定であつた。しかるに、その後、この約定につき当事者間に紛争が生じたので、昭和三〇年六月五日改めて控訴人と被控訴人代理人石山乃木との間で本件植木は被控訴人所望のもののみその引渡の時にその時現在における時価を評価して代金を決定し支払うことと協定した。そして、昭和三一年三月一四日控訴人と被控訴人代理人石山乃木および榎本弁護士との間で植木についての折衝が行われたが、その際被控訴人は本件植木の全部を所望した。しかし、被控訴人は同月一九日頃植木代金を全く支払う意思がない旨を表明するに至つたので、控訴人は、昭和三二年四月五日頃被控訴人に対し、本件土地建物の代金の最終履行期である昭和三〇年一二月末日現在における本件植木の時価に相当する金一二〇万円を昭和三二年四月一五日までに支払うよう催告し、同時に右不履行を条件として本件土地建物植木を目的とする売買契約を解除する旨意思表示した。しかるに、被控訴人は右期間内に右植木代金を支払わないので、右売買契約は解除された。

抗弁(三)

かりに本件売買契約の解除が効力が生じないとしても、被控訴人のなした本件土地建物代金の供託は、適法な提供を経ていないものであり、また、植木代の支払がないから、本件土地の残代金一〇四万六五二八円、建物代金二二〇万円、植木代金一二〇万円、合計四四四万六、五二八円の支払と引換えでなければ本件土地建物の所有権移転登記手続きに応じられない。

三  被控訴人の主張

控訴人の抗弁(一)(二)は、却下を求める。けだし、右各抗弁は、本訴提起後八年、控訴審係属後五年を経過した昭和三九年八月三一日付準備書面をもつて漸くその提出を準備したものであるから、時機に後れた防禦方法というべきである。

かりに、右抗弁の提出が許されるとしても、抗弁(一)において主張する事実はすべて否認する。抗弁(二)において主張する事実のうち、控訴人主張の日時にその主張の催告および契約解除の意思表示がなされた事実は認めるが、その余の主張事実は否認する。被控訴人は、本件売買契約当時、植木園に仮植中の植木は、他の地域に生育する樹木と同様、土地の売買により当然に被控訴人の所有となるものと考えていたものであつて、従つて、植木園の植木についてのみ他の地域の樹木と趣を異にし、特にその対価を後日に協定するという形式での売買契約をなしていない。もとより植木園の植木の代金を一二〇万円と協定したこともない。

以上の次第であるから、被控訴人としては、昭和二九年六月一〇日に締結された契約において明示された土地建物の売買代金を支払えば被控訴人の控訴人に対する本件契約上の義務はすべて果されるのであり、被控訴人が控訴人に対し本件土地建物の所有権移転登記手続を請求することに関する限りにおいては何らの支障がないものである。従つて、かりに本件植木につき後日被控訴人と控訴人との間に控訴人主張のような協定がなされたとしても、それは本件土地建物の売買による控訴人の所有権移転登記手続義務との間に何らの条件関係に立たない。

第三  証拠(省略)

理由

被控訴人は、昭和二九年六月一〇日控訴人から本件土地建物を、土地の代金は一坪当り一〇ドル(邦貨換算三、六〇〇円)面積は実測による、建物の代金は二二〇万円とし、その代金支払方法および所有権移転登記手続の条件は被控訴人主張のとおりの約定で買受けたことおよび本件土地の実測坪数が三〇六八坪四合八勺であることは、当事者間に争いがない。

よつて、抗弁について判断する。

被控訴人は、抗弁(一)(二)は時機に後れて提出されたものであるから却下を求める旨申立てるが、抗弁(二)は第一審の当初の頃よりこれに関する事実関係が主張されているし、抗弁(一)も、既出の証拠により右抗弁の判断に要する事実関係が明らかにされているから、右抗弁の判断のため訴訟の完結は遅延しない。よつて、被控訴人の右申立は採用しない。

抗弁(一)について。

昭和三〇年七月二五日より同年八月上旬に至る間、控訴人は被控訴人の代理人石山乃木との間で残代金を期限に支払わないときは控訴人において催告を要せず本件土地建物の売買契約を解除できる旨約定したとの控訴人主張事実については、藤川頼彦本人尋問の結果においても右約定がなされた旨の供述がなく、従つて、右主張に沿う乙第三六号証の記載内容は事実に合致しているとはいえず、他にこれを認めるに足る証拠がないので、抗弁(一)は理由がない。

抗弁(二)について。

控訴人の主張によれば、本件植木は、本件売買契約の目的となつた土地上に生立するものではあるが、単に同所に仮植育成中のものであつて、いずれは他に移植する予定であつたというのである。そうであれば、これは土地と一体をなすものではなく、土地についての売買がなされたからといつて当然にその所有権が土地の買主に移転するものではなく、その為には、土地を目的とする売買のほか、特に植木を目的とする売買を要するものといわなければならない。

控訴人は、本件売買契約は、本件土地、本件建物および本件植木の三種の物件を目的とする売買契約であると主張する。しかしながら、その成立に争いのない甲第一、二号証は本件売買契約の契約書と認められるが、右書面には、売買の目的物件として本件土地と本件建物が揚げられ、それぞれにつきその代金が明示されているが、本件植木を売買の目的物件とする旨の記載がない(右書面第三項中の「附帯施設」は、本件植木を含める趣旨とは解せられない。けだし、右書面には同条項の目的物件に対する対価は二二〇万円とする旨記載されているが、本件植木の対価を右二二〇万円のうちに含ましめる趣旨であつたことは、控訴人被控訴人の双方とも主張せず、またその趣旨の証拠もないから、売買の目的物件として本件植木を表示するのに右第三項中に右の表現をもつてすることは自然でないからである)。もし控訴人の主張するように、本件売買契約において本件植木を特に本件土地と別個に売買の目的物件となし、その代金の決定を後日に留保する旨の約定がなされたとするならば、その旨の記載が右契約書中に明示されて然るべきである(もし本件植木の売買が本件土地建物の売買と別個の売買であるならば、右甲第一、二号証に本件植木のことが記載されないのは敢て異とするに足りないことになるが、その場合は、その植木代金の不払をもつて本件土地建物の売買契約解除の理由とすることができないことはいうまでもない)。のみならず、控訴人藤川頼彦本人尋問の結果(原審)においてさえ、本件売買契約は、当初より地上物件を除外して土地だけの売買として話が進められ、契約当日(昭和二九年六月一〇日)になり、地上建物については、被控訴人側からの要請により急にその代価を取りきめて土地と一括して売買することになつたが、本件植木については、その日は明確な約定が何らなされなかつた旨供述しているし、同人の被控訴人宛昭和三〇年三月四日付書簡であることにつき争いのない甲第一三号証や控訴人の当審第一回本人尋問の結果により同人の昭和三〇年三月三日の日記であると認められる乙第一三号証の三にも、前同趣旨のことが記されている。以上によれば、本件売買契約において本件植木を特に売買の目的物件とする旨の約定がなされなかつたものと推認される。もつとも、控訴人は、当審に至りその第一、二回本人尋問において、土地、建物、植木を一括して売買した旨供述するに至つたが、前記の契約書、書簡、日記や原審における控訴人本人尋問の結果と対比すると、右供述は信用できない。一方、被控訴人側では、本件土地上に生立する樹木中、土地と附加して一体となるべき立木と、動産として土地と別個に売買の対象とするべき本件植木との法律的性格の差異は意識していなかったようで、被控訴人側関係者として本件契約に立会つた証人の証言には、本件売買契約により当然に本件植木も被控訴人の所有となると思つていた旨の供述がある(証人サンチイナ・グロツセ・アルフオンゾ・クレバコーレ原審第一、二回、平手はな原審および当審各第一、二回、テレサ・メルロ各証言)。しかしながら、前記契約書の文言に徴すると、前記各証人の証言中本件売買契約において本件植木を売買の目的物件とする旨明示されたとの部分は信用できない。その他、この点に関する控訴人の前記主張を認めるに足りる証拠は存在しない。

以上の次第であるから、本件売買契約において、本件土地と別個に本件植木を売買契約の目的物件となし、その代金を後日取りきめる旨の約定がなされたことを前提とする控訴人の抗弁(二)は理由がない。

抗弁(三)について。

被控訴人が控訴人に対し昭和三〇年八月三一日までに本件土地建物の代金中一、〇〇〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。さきに確定した本件土地建物の代金支払いに関する約定によれば、被控訴人は控訴人に対し残金は昭和三〇年一二月末日に一括してその全額を支払うべきこととされている。ところが、成立に争のない甲第七号証に当審における控訴人本人尋問の結果(第一、二回)によれば、控訴人は昭和三〇年一二月二〇日頃に被控訴人に対し本件植木の時価は一二〇万円を下らないから、右金額を本件土地建物の残代金三〇〇万円に加算して支払うべき旨を要求し、三〇〇万円だけの提供があつてもこれを受領する意思のないことを述べたので、被控訴人側は屡々控訴人と折衝を重ね、昭和三一年三月中旬頃控訴人は本件植木代金を六〇万円に減額する旨の提案をするに至つたが遂に妥結に至らなかつたことが認められる。そして、被控訴人が昭和三一年二月二一日本件土地代金として九六万一四九六円、同年四月六日本件建物代金として二二〇万円、昭和三四年一一月一〇日同支局に誤算による本件土地の残代金として八万五〇三二円をそれぞれ東京法務局八王子支局に供託したことは当事者間に争のないところである。

以上によれば、控訴人は、被控訴人より本件土地建物の残債務の提供があつても受領しないことが明らかであつたのではあるが、被控訴人は右供託に先立ち弁済の提供をしたことは、成立に争のない乙第三〇号証を附加する外、この点に関する原審判決の理由説示を引用する。以上のとおりであるから、控訴人の抗弁(三)は理由がなく、被控訴人は本件土地建物の残代金債務全部を弁済したものというべく、控訴人に対し本件土地建物につき所有権移転登記手続を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。しかるに、原判決が被控訴人の請求の一部を棄却したのは失当であるけれども、被控訴人はこの点につき不服申立をしないので本件控訴を棄却するの外はない。

よつて、民事訴訟法三八四条、三八五条、八九条に従い主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

(一)東京都調布市深大寺町字宿三〇四九番

一、山林 九畝一二歩

同所三〇五〇番

一、山林 一六歩

同所三〇五一番

一、山林 一畝二歩

同所三〇五二番

一、山林 九畝歩

同所三〇五三番

一、畑 一畝二八歩

同所三〇五四番

一、山林 四畝四歩

同所三〇五五番

一、畑 九畝二六歩

同所三〇五六番

一、畑 一段二畝三歩

同所三〇五六番の二

一、畑 二畝一六歩

同所三〇五七番

一、山林 二畝三歩

同所三〇五八番

一、山林 一段四畝七歩

同所三〇五九番

一、畑 一段九畝九歩

(二)同所三〇四九番地所在

一、木造セメント瓦葺平家建居宅一棟

建坪 四八坪五合

同所同番地所在

一、木造スレート葺平家建居宅一棟

建坪 一七坪二合五勺

同所同番地所在

一、木造スレート葺平家建倉庫一棟

建坪 三坪

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